藤沢秀行

 「藤沢でございます」袴姿に威儀を正した名誉棋聖藤沢秀行は「勝負と経営」と題されたテーマにやゝとまどいながらも訥々として飾らず、しかし本物のもつ深いその等身大の世界をあるがまゝに垣間見せてくれた。
 「私も皆さんも同じなんですヨ」と人に説く、道の深さに対する謙虚さ。
 「経済、経営にしても、何事によらず、よく解かるということ自体がおかしくはありませんか」と聴衆に問いかける。
 碁で大切なことは「いかなる変化にも対応できる力を養うこと」いかなる変化にも対応できること即ち「それが力」と語る。
 小学生の習字を「何故学校の先生はアレを直すのでしょうかネ」「とてもいい字だと思いますがネ」ドキッとする深さが伝わる。
 まるで生死の境がないようなあの迫力は一体どこから生まれるのでしょうか。
 時折コップの水を、極上の酒を楽しむように少しずつ口に運びながら語る人間、藤沢秀行。
 人が人をひきつけるその引力に圧倒される。
 講演の後の質問に「良い碁とは一体どのような碁なのでしょうか」とありました。
 これは講演の中で四国の御婦人で初級の方の碁を誉めた話についての質問でありました。
 良い碁とは「石が素直に自然にいく」ということです。と言われた。
 「現場が大切」という藤沢さんに「先生は部分と全体ということについてどのようにお考えでしょうか」とたずねさせて頂いた。
 ウンと肯かれた先生はたちどころに「大局観も細部も同じです。一目でわかることが必要、それが力というもの」と答えてくれました。
 碁を学ぶということは色々なことをいろいろな事から学ぶことなのだ、という藤沢秀行の世界が合気道の世界に重なった。