以前、囲碁の上達法について関西棋院の橋本昌二さんが「交叉する線上にキチンと石を置くことができればそれだけで上達します。」といっていたことがありました。
もちろん他にも詰碁や定石の勉強も上達には必要なのでありましょうが、まるで関係ないと思われた石の置き方について言及されていたのが印象的でありました。
誠に示唆に富む言葉であると思います。
将棋の世界でも座った時の座ぶとんのへこみの乱れ具合で形勢が分かるものだとも聞いたことがありました。
ひとつひとつの所作がキチンとできるということは実は大変なことなのかも知れません。
数々のタイトルを手中にして頂点を極めた感のある趙治勲さんが、「囲碁とっておき上達法」(日本棋院)の中で「狭さの中に広さがある。」という興味あることをいっております。
内容は初心者向き、というのは表向きでありまして実は大変に含蓄のある本に思えてなりませんでした。
通常は、十九路盤が使用されますが、九路、七路、五路、三路といった極小盤を紹介され、この中に含まれる筋と変化の多さに感嘆の声をあげています。
やゝもすると、広さを単なるスペースとみがちな昨今にあって本質を学ぶ際の貴重な原点を教えられる思いがいたしました。
ある日訪れた先で、さそわれるまゝに庭先におり立った時、さして広いとも思えないそのスペースに花は花らしく、草木は草木らしく実にのびのびとしておりとても豊かな気持にさせて頂いたことがありました。
この家の方の草花に対する広さを超えた深い心づくしのようなものを感じさせられるひとときでありました。
合気道の稽古にあっても例え極少の部分であれ、心の行き届いたキチンとした所作のひとつひとつが天地自然と合致するよろこびをかみしめてこそ上達してゆくものと思います。