天皇の手を握った男

 去る十一月十二日(水)、天皇・皇后両陛下とスペイン国王・王妃両陛下の前で茨城県つくば市に於いて合気道と鹿島新当流の演武が披露されました。
 国賓として来日されたスペイン国王、王妃の日本武道への関心が高かったことから実現されたとのことであります。
 合気道の演武は茨城道場の稲垣繁實師範を中心としたメンバーの演武があり、鹿島新当流からは六名の演武者がありました。
 この六名のメンバーの中に、なんと、佐倉で共に合気道を学ぶ吾等の仲間、横尾廣美さんがおりました。
 制限された見学者の中には同じく仲間の末永剛君も含まれておりました。
 お二人にとっては貴重、且つ名誉な体験であった事と思います。
 永く記憶に留めるためにも是非この会報に残したいと思いました。
 演武の終了後に労らいのお言葉があった際に、伏し目勝ちにおじぎをしていたご当人は天皇陛下のお手が少し動いた(と思った?)のを機に思わず握ってしまったそうであります。
 後で長老から「馬鹿野郎、普通は陛下の手は握らないものだ」としかられたそうでありますが、本人の面目躍如といったところでしょうか、陛下はしっかりと横尾さんの手を握りかえしてくれたそうであります。
 そして皇后陛下のお手は小さく、「思わず胸がつまった」と、その時の印象を語ってくれました。
 日々にご修養の深い両陛下に触れて身も心も洗われる思いであった事でありましょう。
 昔、旧本部道場での開祖の稽古中のお話の中で「塚原卜伝先生」と言われていたのを聞いたことがあります。
 我々には講談の中の人物でしたが開祖には「先生」といえる程身近に感じておられたのでしょう。
 植芝盛平先生の新当流宗家に対する厚い礼節は今だに語り伝えられているとのことであります。