真の武道(植芝盛平翁語録)

 合気道の極意は、己の邪気をはらい、己を宇宙の動きと調和させ、己を宇宙そのものと一致させることにある。
 合気道の極意を会得した者は、宇宙がその腹中にあり、「我はすなわち宇宙」なのである。
 そこには速いとか遅いとかいう、時間の長さが存在しない。
 この時間を超越した速さを、正勝、吾勝、勝速日という。
 正勝、吾勝、勝速日とは、宇宙の永遠の生命と同化することである。
 では、いかにしたら、己の邪気をはらい、心を清くして、宇宙森羅万象の活動と調和することができるであろうか。
 それには、まず宇宙の心を、己の心とすることだ。
 宇宙の心とは何か、それは上下、四方、古往今来、宇宙のすみずみにまで及ぶ偉大なる「愛」である。
 愛は争わない。
 愛には敵はない。
 宇宙の動きと調和できない人間の武は、破壊の武であって真の武ではない。
 真の武道には敵はない、真の武道とは愛の働きである。
 それは殺し争うことでなく、すべてを生かし育てる、生成化育の働きである。
 愛とはすべての守り本尊であり、愛なくば全ては成り立だない。
 「勝つ」とは已の心の中の「争う心」に打ち勝つことであり、已に与えられた使命を成しとげることである。