人間の身体の働きの一つに「歩く」という動作があります。
歩き方には、その時々の心身の情況による違い、体形による違い、地形による違い、年令による違い等々、いろいろな歩き方があると思います。
いずれにしても、歩くという動作は、前に進もうとする意志と、崩れ落ちようとする体重を両足で支えるといういのちの働きによってはじめて可能な動作であるといえます。
例えば、前に進もうとして右足を一歩踏みだし、次にその上に上半身を載せ、上半身が右足の上に乗った時点で左足を踏み込み、更に上半身を左足の上に移す、つまり、足の上に上半身が遅れて移動するような歩き方は何んとなくギクシャクするものであり、進もうとする気持を先行させ、体の重心の静かな移動に対して、上半身を支える為にやむを得ずに足が前に出ることが足本来の働きを効率よく活かし、且つ、腰、膝を中心に振り子のようになめらかなリズムをとることによって合理的な歩き方が可能となります。
歩行は地球の引力の存在によって始めて可能な動作であります。
この引力と調和を取る為にはいのちの働きが必要であります。
したがって歩行といえども単に足腰の働きだけで行なわれるものでもなく全身全霊の関与する行ないであるといえましょう。
このことは人間の動作の全てについていえることだと思います。
合気道の不断の稽古についても、単純な動作の一つ一つに誠を尽くし、いのちの働きが形となって産まれてくる様な鍛錬を重ねることが必要とされます。
故に演武会等でも、その人の一挙手一投足をみればおおよその技量の見当がつくとされている由縁であります。
何はともあれ、おおいに歩きましょう。